2021/02/24

DDS*1技術「PLGA*2ナノ粒子」の紹介(1)

 シオノギファーマ株式会社(以下、シオノギファーマ)は、粉体技術の世界トップ企業であるホソカワミクロン株式会社*3 (以下、ホソカワミクロン)および専門商社である株式会社野村事務所と、2020年6月1日に「PLGAナノ粒子を用いた医薬品の製剤開発から治験薬/商用製造(無菌、非無菌対応)」に関する総合的アライアンスについて合意しました(2020年6月12日プレスリリース*4)。

ホソカワミクロンにてお客様の薬物ないしは候補物質のPLGAナノ粒子化を受託研究した後、シオノギファーマでGMP*5に準拠した医薬品(治験薬/商用品)を製造するという一連の開発支援業務を開始しています。

 

*1 DDS:Drug Delivery System(薬物送達システム)

*2 PLGA:Poly Lactic-co-Glycolic Acid(ポリ乳酸・グリコール酸共重合体)

*3 ホソカワミクロン株式会社:https://hosokawamicron-material.com/ (マテリアル事業本部HP)

*4 プレスリリース:https://www.shionogi-ph.co.jp/news/2020/06/200612.html

*5 GMP:Good Manufacturing Practice(医薬品等の製造品質管理基準)

 

 まず、この協業に至った経緯を紹介します。

 ホソカワミクロンは生体吸収性高分子であるPLGAを用いて、ナノ粒子を考案された川嶋 嘉明 先生(岐阜薬科大学名誉教授、愛知学院大学薬学部特任教授)と共に、2001年に産官学連携大型プロジェクトに参画しました。本プロジェクトにおいて、PLGAナノ粒子(PLGAを用いたナノ粒子)をDDS製剤や医療デバイスへ利用する研究プラットフォームの構築に至りました。2003年からは細胞や動物実験に使用する本粒子を小スケールにて製造する受託研究事業を開始しています。

 2020年6月にはそれらの研究成果の実用化を担う医薬品GMP製造プラットフォームをシオノギファーマにて整備し、上記の総合的アライアンスの締結に至りました(下図参照:ホソカワミクロン社からご提供)。これらのプラットフォームの稼働により、PLGAナノ粒子技術を利用したお客様の創薬開発ニーズに対し、基礎研究から医薬品の製剤開発、医薬品(治験薬/商用品)の製造までシームレスで広範な対応ができるようになりました。

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 次に、ホソカワミクロンのPLGAナノ粒子技術の概要を紹介します。

 

PLGAについて

 臨床応用で用いられる新素材には特異な機能性と高い安全性が兼備されていなければなりません。その点、PLGAは生体内での加水分解によって構成モノマー成分であって生体構成・医食成分でもある乳酸とグリコール酸に戻り、最終的にはTCA回路(Tricarboxylic Acid Cycle)を経て水と二酸化炭素へと分解され体外へ排出される安全性の高い材料になります(図1の左図参照)。PLGAナノ粒子の電子顕微鏡写真(SEM)と模式図は図1の右図のとおりです。

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図1 PLGAの化学構造とPLGAナノ粒子のSEM写真(ホソカワミクロン社からご提供)

 医薬品への用途としては、前立腺・乳がん用長期徐放性の皮下注射製剤に用いられているマイクロカプセルの基剤がよく知られており、世界90か国以上で長年臨床利用されています。PLGAナノ粒子は川嶋 嘉明 先生(岐阜薬科大学名誉教授、愛知学院大学薬学部特任教授)らが考案した球形晶析法*6*7を応用した水中エマルション溶媒拡散法(Emulsion Solvent Diffusion method:ESD法)によって製造されます。本粒子は薬物封入徐放性ナノ粒子*8として、ナノ機能性の応用を目指した新たな研究開発が活発に進められてきました。

 

*6 Science, 216(1982)

*7   Y. Kawashima “Spherical Crystallization as a New Platform for Particle Design Engineering” Springer Nature Singapore (2019) 

*8 Eurp. J. of Pharm. Biopharm., 45 (1998)

 

PLGAナノ粒子の製造フローについて

 図2のとおり、ESD法では、PLGAと薬物とを水混和性有機溶媒(主にアセトン+エタノール)へ溶解させておき、これを水中へ添加した際に生ずる自己乳化による微小エマルション滴の形成と、水と有機の両溶媒の相互拡散によるエマルション滴内でのPLGAの沈積によって固体のナノ粒子が作製されます。その後、溶媒留去、ろ過、凍結乾燥を経て、PLGAナノ粒子の粉末を得ます。

 ホソカワミクロンでは本法における溶媒中のPLGA濃度制御などの各種ファクターの調整により、PLGAエマルションの合一を制御することでPLGAナノ粒子の粒径を広範に制御することが可能です。

 

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図2.PLGAナノ粒子の製造フロー(ホソカワミクロン社からご提供)

 

PLGAナノ粒子の製造スケールについて

 図3のとおり、研究初期の粒子設計段階のビーカースケール(0.5L)から、商用粒子製造(100L)に至るまで、各開発ステージに見合った製造スケールで対応可能です。

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図3.PLGAナノ粒子の製造スケール(ホソカワミクロン社からご提供)

 

PLGAナノ粒子の特徴

 PLGA ナノ粒子の特徴を以下に示します。

 図4より、PLGA がナノ粒子化されると比表面積が急増し、生体膜や粘膜層への滞留・付着性が増強されます。ナノサイズ効果による浸透性と加水分解に起因した徐放作用があるため、各目的部位での薬物吸収性が高まることが期待されます。また、ナノサイズ化によって細胞(数~数十μm)が外物質を取込むエンドサイトーシスを受けやすく、この現象を通じて内包薬物を細胞内へデリバリーすることが可能となります。このため、核酸医薬のキャリアとしても昨今広く研究されています。

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出典:川嶋 嘉明 先生(岐阜薬科大学名誉教授、愛知学院大学薬学部特任教授)作成スライド資料(一部改変)

図4 PLGAの粒子サイズと生体・粘膜吸収性の違い

 

PLGAナノ粒子の無菌性保証について

 PLGAナノ粒子を注射剤として使用する場合は本粒子の無菌性を保証する必要があります。図5はPLGAナノ粒子の粒径と目開きが0.2μm未満の無菌ろ過フィルターでのろ過率の関係を示しています。ESD法によるPLGAナノ粒子サイズは晶析時の良溶媒中のPLGA濃度を減らすと細かくでき、その平均粒子径を150nm程度(動的光散乱法)にすることで効率よくろ過滅菌ができ、無菌性を保証できるようになりました.なお、晶析時の良溶媒中のPLGA濃度を減らすと粒径が小さくなるのは、古典的核生成理論に基づき、溶媒界面におけるPLGAの過飽和領域(核生成ゾーン)が狭まって核に取り込まれるPLGA分子が減少するためと考えています。

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出典:『粉砕』, 56(2013)

図5 PLGAナノ粒子の無菌化技術(加圧滅菌のための粒子径制御)

 

 今回の記事ではPLGAナノ粒子の概要について紹介させて頂きました。次回は研究実績や用途について紹介する予定です。

 

 シオノギファーマは、お客様から信頼される 「技術開発型モノづくり企業(CDMO*9)」 となることをミッションとして掲げ、2019年4月1日より事業を開始しました。原薬の製造法開発および製剤処方開発から商用生産に加え、分析法開発や医薬エンジニアリング技術による設備設計サポートなどを含めた 「フルレンジサービス」 をワンストップでご提供できる体制を整えております。お客様のご要望に応じた受託サービスやソリューションサービスの提供を行っていますのでお気軽にご相談ください。

 

*9 CDMO:Contract Development Manufacturing Organization